昨年の面白かった本を振り返る時間がやって参りました。
毎年読んだ本から10作選んでブログに書いているのを今年からはこのサイトで公開します。いつも年内に完了していたのですが11月、12月は余裕がなくて無理でした。

2023年はアジア圏の作家の本を良く読みました。長らく読んできた英米系の本から少し離れ、なんとなく彷徨っていたところに運よく大きなジャンルに出会えて嬉しい年でした。これはもう、あまりたくさん読んでない日本の本に帰還?する日もまもなくと思われます。

というわけで10選です。番号に意味はなく、例によって2023年に出版されたわけではない本が含まれています。
それでは、いってみましょう。

1,氷柱の声  くどうれいん

思い出したくない時に、思い出し、肝心な時には忘れてしまっている震災の記憶。
避けがたく全ての人が被災する日本という国で、静かに向き合っている人の本でした。
家族が亡くなったわけでもないし、家も無事、でもずっと震災に支配されていた人生。
「あの日ってなんだよ!」とか「わたしの十代をかえせ」という声に、胸がぐらっと来ました。わかるよ、ほんとに。

2,モーメント・アーケード ファン・モガ

昨年の29日に読んで、うわーつとなったSF作品。作者のファン・モガさんは日本でも15年ぐらい働いておられたそうです。
あとがきなどによると、2019年ぐらい?から韓国はSFブームらしく、それに今全力で乗っかっています。韓国では純文学があまり売れなくなる代わりにSFが流行しているそうで、しかも読んでいるのは女性とのこと。世の中に対する不安や不公平感がSFという形を取って表れているのが流行の理由ではないかとのこと。いずれにせよ、小説に出てくる地名を変えて、ブラインドで読んだら、既存の英米の小説と同レベルかと思います。取り扱っているギミックも結構最新のものです。K-pop同様、十分にグローバルな印象があります。

3,回復する人間 ハン・ガン

ハン・ガンさんの本は全て読むつもりで、開始したハン・ガンさんマラソン。先は長いです、やっぱり読んでいてやっぱり苦しいし悲しい。連続で読む事がなかなかできないです。「すべての、白いものたちの」も良かったけれど、今の所の僕のベストはこっちです。落ち切ったときの美しさもありますが、もっと楽でいて欲しい、あなたに回復してほしい、例え不可能でもできなくてもそう願いたいです。

4,真の人間になる  甘耀明

第二次世界大戦の日本の降伏宣言後、フィリピンから飛び立った軍用機が三叉山の東北東部に墜落。解放されたアメリカ人捕虜など、機内全員26人が死亡した。
「三叉山事件」をテーマにした大作。戦時中の雰囲気が良く描かれています。上巻なんかは「戦時中の野球」の印象の方が強く残ります。

最初のとっつきにくさから、主役の二人がだんだん好きになる。戦時中の台湾で過ごすことがどんな感じだったのか、ノンフィクションのように読めます。

5,絶望名人カフカの人生論 カフカ


ネタですよねと何度も言いたくなる究極のネガティブぶり、僕もたいがいネガティブですが、彼には負ける。白旗。
それにしてもこんなに手紙を書いてるんだから、ものすごく元気なのではないか?と思います。カフカの絶望を多数紹介。逆に元気になる不思議な本。

6,惑う星 リチャード・パワーズ

最強作家リチャード・パワーズの2022年の作品。
一作書くだけでも大変なのに、毎回毎回スケールの大きい本を続々と出してくる。
テーマも毎回違う、頭の構造はどうなっているんだろうかと感嘆しきり。
特に前作の「オーバーストーリー」という作品は、信じられない分量とテーマの深さだったので、次作は本当にどうするんだろうと思っていたらこれが来た。

「惑う星」はパワーズにしては、分量も文体も普通の小説に近い。(量が気になるのも彼の作品ぐらいだよ)父と子のキャンプ中の語りから始まり、一章一章がとても短い。入りはアメリカの田舎を舞台としたアメドラみたいで、そしてやはりというか最初から、どこか悲しさに包まれている。
そう、パワーズの小説って知識先行と言われがちですが、必ずと言っていいほど家族の話が出て来て、それにいつも心が打たれる。
この小説はとても「小説らしい」ので一番読みやすいかもしれないけれど、一番読んでいて悲しい。

7,これは水です デヴィット・フォスター・ウォレス

一月の課題図書にしました。本としても出来が良くて持っていたい一冊。帯にジョブズのスピーチよりも選ばれているスピーチとのことで、どれほど気合が入るスピーチなのかと思ったら、そういう内容ではない。「水はどうだい?」が合言葉になります。

8,毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである。 枡野浩一

本屋になってから、一番目に付くようになった本は「短歌」です。
この本の帯にあるように「短歌ブームはここからはじまった」とあるように、
僕もこの本から「短歌」を読むようになりました。「短歌」とあるだけで全部の新刊が気になる今日この頃。短歌一年生。

とにかくタイトルが秀逸で、何気なく歩いていた本屋でこのタイトルが目に入って、さっと手が伸びました。
これは自分のための本だなと。たぶん多くの人がそう思ったんじゃないかと思います。
オザケンのコメントなどもあり、もうこれは連れ帰るしかない一冊です。俵万智さんとの嬉しい往復書簡もついています。

「わけもなく家出したくてたまらない 一人暮らしの部屋にいるのに」

「こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう」

などなど、誰もいない日に適当にページをめくり、数ページ読むというのがこの本の味わい方ではないかと思います。

9、この まちの どこかに シドニー・スミス

絵本100選というのを見ていて、すごく気になったので入荷しました。
ソール・ライターの写真のようなバスに乗っている少年の絵から始まり、小さな子供が都会を彷徨う姿が描かれます。
少年は孤独で、寂しそうに町を歩いています。目的は分かりません。ただ寂しそうに見えます。

一人で出かける事が多かった子供の頃、こんな風に心もとない気持ちに何度もおそわれたのが重なります。

できれば、内容について何の情報も持たずに読んで欲しい絵本です。検索はしない方が良いと思います。
最後には想いが強く広がるように伝わってきます。

2019年のニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞、2020年のエズラ・ジャック・キーツ賞などを受賞。

10,神様の貨物 ジャン=クロード・グランベール

あまり期待していなかったのに、びっくりするぐらい素晴らしかった小説、素晴らしいという表現が正しくないかもしれないけれど。
感動を煽るようなものでもなく、涙を誘うようなものではなく、私たちに取って何が本当に大事なのかを書いた見事な寓話だった。

フィクションというものは捉えきれない「ほんとうのこと」を、何とか嘘で書くということなのだという事を改めて確認できた。
最後のエピローグまでぜひ読み進んで欲しいです。

以上10選でした。

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電車に乗らなくなったので読書時間をどこかで確保しなかきゃなと思いながら過ごしていましたが、ふいに「営業時間中に読んだら良いじゃないか」と気が付きました。
サボってるのではありません。本屋なのだから読むのが仕事です。と言い聞かせて今日も背徳感と共に読書。

2024年もよろしくお願い致します。
今年も素晴らしい本に出会えますように。

(※紹介した本は、店頭、通販でお求めいただけます)