説明
本文より「カフカの言葉」
ぼくはひとりで部屋にいなければならない。
床の上に寝ていればベッドから落ちることがないように、
ひとりでいれば何事も起こらない。
ぼくは人生に必要な能力を、
なにひとつ備えておらず、
ただ人間的な弱みしか持っていない。
自分は小学校一年も修了できないだろう、
とぼくは思い込んでいました。
実際はそうはなりませんでしたが、それでも自信は湧いてきません。
逆にぼくは、成功が重なるにつれて、
最後はそれだけ惨めになるにちがいないと、
かたくなに信じていました。
ぼくの生活は以前から、
書く試み、それもたいてい失敗した試みから成り立っていました。
書かないときは、
ぼくは床に横たわり、
箒で掃き出されて当然といった状態になるのでした。
フランツ・カフカ(1883-1924)
オーストリア=ハンガリー帝国領当時のプラハで、ユダヤ人の商家に生る。プラハ大学で法学を修めた後、肺結核で夭折するまで実直に勤めた労働災害保険協会での日々は、官僚機構の冷酷奇怪な幻像を生む土壌となる。生前発表された『変身』、死後注目を集めることになる『審判』『城』等、人間存在の不条理を主題とするシュルレアリスム風の作品群を残している。現代実存主義文学の先駆者。
出版社 : 新潮社
発売日 : 2014/10/28
言語 : 日本語
文庫 : 267ページ
ISBN-10 : 4102071059
ISBN-13 : 978-4102071052